かつて光モジュールは通信ネットワークの中でもほとんど注目されない存在でした。しかし2026年には、AIコンピューティング競争における避けて通れない「重要なボトルネック」となっています。
需要の急拡大、供給不足、そして急速な技術革新。この3つの要素が重なり合い、現在の光モジュール市場を象徴しています。2026年7月時点では、「受注は2028年分まで埋まっている」一方で、「技術ロードマップは急速に進化を続けている」という局面を迎えています。
Yole Groupによると、世界の光モジュール市場は2025年の234億ドルから2031年には1,123億ドルへ拡大し、年平均成長率(CAGR)は30%に達する見込みです。その主な成長要因はAIの学習・推論インフラです。【1】またLightCountingは、2026年のデータセンター向け光モジュール市場が約228億ドルに達し、そのうち800Gと1.6Tが約64%を占めると予測しています。【2】
光モジュールとは
光モジュールとは、電気信号と光信号を相互に変換する光電変換デバイスです。送信側では電気信号を光信号へ変換し、光ファイバーを通じて送信します。受信側では光信号を再び電気信号へ変換します。
仕組みはシンプルですが、光ファイバー通信には欠かせない存在です。ルーター、スイッチ、サーバー、ストレージなど、あらゆる機器の相互接続を支えています。
構造面では、送信光サブアセンブリ(TOSA)、受信光サブアセンブリ(ROSA)、光インターフェース、回路基板などで構成されています。通信速度は1G、10G、100G、400Gから、現在主流となりつつある800Gや1.6Tまで幅広く対応しています。パッケージ規格にはSFP、QSFP、QSFP-DDなどがあり、高速化・高集積化が進むほど技術的なハードルも高くなります。
長年にわたり、光モジュールは「縁の下の力持ち」として、データセンターや通信ネットワークの中で静かにデータを運ぶ役割を担ってきました。しかし、この2年間でその立ち位置は大きく変わりました。
なぜ今、光モジュールに市場の注目が集まるのか
答えはシンプルです。それはAIです。
AIモデルの学習や推論は、本質的に「計算資源を積み重ねる」プロセスです。数千基ものGPUが接続され、大規模なコンピューティングクラスターを構築します。
こうしたGPU同士は膨大なデータを絶えずやり取りする必要があります。特に1兆パラメータ級のAIモデルでは、データ転送量は天文学的な規模になります。
高速通信では銅線ケーブルは信号減衰が大きく、伝送距離にも限界があります。そのため、光ファイバーが唯一現実的な選択肢となります。そして光モジュールは、その光ファイバー通信を支える「インターフェース」の役割を担っています。
6社それぞれの異なる戦略
Yole Groupによると、世界の光モジュール市場は2025年の234億ドルから2031年には1,123億ドルへ拡大し、年平均成長率(CAGR)は30%に達する見込みです。その主な成長要因はAIの学習・推論インフラです。【1】LightCountingはさらに、2026年のデータセンター向け光モジュール市場は228億ドル規模に達し、そのうち800Gと1.6Tが約64%を占めると予測しています。【2】またTrendForceは、Googleの高速インターコネクトアーキテクチャを背景に、2026年には800G超の光モジュール出荷比率が世界全体で60%を超えると見込んでいます。
需要面から見ても、その勢いは明らかです。Alphabetの2026年設備投資計画は1,750〜1,850億ドル、Amazonは約2,000億ドル、Microsoftは単一四半期だけで349億ドルの設備投資を行っています。これらの資金の多くはデータセンター、サーバー、ネットワーク機器へ投じられており、そのネットワーク機器を支える中核部品の一つが光モジュールです。
光モジュールのサプライチェーンには数多くの企業が参入していますが、それぞれ異なるポジションを担い、異なる成長戦略を展開しています。
Marvell(MRVL):"接続"そのものを支える企業
MarvellはGPUやCPUを製造しているわけではありません。同社が手掛けるのは、光モジュール内部で信号処理を担う高速光DSPです。400G以上のデータセンター向け光モジュール市場では、Marvellの光DSPが約70%のシェアを占めています。
2026年3月、Marvellは業界初となる1.6T ZR/ZR+プラガブル光モジュールと2nmコヒーレントDSPを発表しました。同月にはNVIDIAが20億ドルを出資し、MarvellをNVLink Fusionエコシステムへ組み入れています。
Marvellの成長ロジックはシンプルです。AIデータセンターが増え、大規模化するほどデータ通信量は増加します。そして、データ通信が発生する限り、光DSPは欠かせない存在です。
Lumentum(LITE):さらに上流を担う光チップメーカー
Lumentumは光チップを手掛ける上流企業です。2026年度第3四半期の売上高は8億800万ドルとなり、前年同期比約90%増を記録しました。
成長を支えた主な要因は、200G EMLレーザーチップの過去最高出荷と、光回線スイッチ(OCS)の受注拡大です。OCSの受注額は4億ドルを超えています。
さらに、LumentumはNVIDIA向けUHPレーザーのサプライヤーでもあり、CPO(Co-Packaged Optics)製品は2026年後半から量産出荷が始まる見込みです。
光チップは光モジュールの中でも最も技術的ハードルが高い分野です。NVIDIAが2026年3月にLumentumとCoherentへそれぞれ20億ドルを投資した背景には、上流サプライチェーンを確保する狙いがあります。
Coherent(COHR):サプライチェーン全体をカバー
Coherentは材料から完成品の光システムまで、光関連の幅広い製品を手掛けています。
2026年度第3四半期の売上高は15億8,000万ドルで、そのうちデータセンター・通信事業が75.4%を占めています。
CPO分野では、CWレーザーやELSモジュールだけでなく、VCSEL、アイソレーター、熱電冷却器(TEC)、PIC、フォトディテクターなど幅広い製品を展開しており、CPOバリューチェーンへの関与は市場予想を上回る水準とされています。
生産能力についても、2026年度第3四半期までにリン化インジウム(InP)デバイスの生産能力を倍増し、2027年にはさらに倍増する計画です。
Applied Optoelectronics(AAOI):規模は小さいが高成長
AAOIは企業規模こそ比較的小さいものの、高い成長率を維持しています。
2026年第1四半期の売上高は1億5,100万ドルで、前年同期比51.4%増となりました。このうちデータセンター事業の売上高は8,140万ドルと、前年同期比で2倍以上に拡大しています。
同社は積極的に生産能力を拡大しており、月産10万台規模の800G・1.6T生産ラインはすでに量産を開始しています。2026年末までには月産65万台への拡大を計画しています。
AAOIは800G製品がデータセンター事業最大の収益源になると見込んでおり、2027年半ばまで需要が供給能力を上回る状況が続くと予測しています。
Ciena(CIEN):システム全体を支えるネットワーク企業
これまで紹介した企業とは異なり、Cienaは光ネットワーク機器やデータセンター相互接続ソリューションを主力とする企業です。
2026年第1四半期の売上高は14億3,000万ドルで、前年同期比33%増となり過去最高を更新しました。また、2026年度通期売上高見通しも59億〜63億ドルへ引き上げています。
Cienaの強みは、分散型AI学習向けネットワークにあります。大規模クラウド事業者は電力や設置スペースの制約を回避するため、複数拠点へ計算資源を分散しています。そのため、地域をまたぐAI学習クラスターを高速光ネットワークで接続する需要が急速に拡大しています。
同社は独自のHyper-Rail標準が2026年末から導入され、2027年には本格展開されると見込んでいます。
LumentumとCoherentは光チップやレーザーなどの上流分野を担い、Marvellは中流の光DSP市場で圧倒的な存在感を持っています。AAOIは光モジュール製造分野で急速にシェアを拡大し、Cienaはシステムレベルの相互接続ソリューションに注力しています。
これら6社は、材料からシステムまで、光モジュール産業チェーンのそれぞれ異なる領域を代表する企業です。
「白髪の株神」Serenityの光モジュール投資ロジック
光モジュール相場を語る上で、匿名リサーチャーであるSerenityの存在は欠かせません。SerenityはXで70万人以上のフォロワーを持ち、白髪のアニメアイコンを使用していることから、中国の投資家コミュニティでは「白髪の株神」と呼ばれています。彼の投資手法は、NVIDIAのようなAIコンピューティングの中核企業へ投資するのではなく、AI産業チェーンの上流・下流へ視点を広げ、市場で見落とされがちな「つるはしとシャベル(Pick-and-Shovel)」銘柄──光モジュール、液冷、電力設備、銅線インターコネクトなど──を発掘することです。2026年上半期だけで株式投資のリターンは45倍に達したとも伝えられています。
Serenityの投資手法は、フォロワーの間で**「ボトルネック理論」**と呼ばれています。彼は、AIコンピューティングの拡大局面において、大きなリターンを生み出すのは注目を集める中心企業ではなく、「物理的な制約に対する配分権」を握る周辺企業だと考えています。その投資ロジックは、次の一文に集約されます。
AIコンピューティングの産業チェーンをたどり、その時点で最も供給が逼迫しているボトルネックを見つけ、そこへ重点的に投資する。
この投資手法は、光通信分野で十分に実証されています。2025年初頭、SerenityはAAOI、LITE、AXTIに注目しました。当時の時価総額は、それぞれ約20億ドル、260億ドル、5億ドルでした。2026年半ばには、それぞれ153億7,000万ドル、744億7,000万ドル、72億4,000万ドルまで拡大しています。中でもAXTIは株価が12ドルから70ドル超まで上昇しました。これは「ボトルネック理論」を象徴する事例です。リン化インジウム(InP)基板は光チップの基礎材料であり、光チップは光モジュールの中核部品です。Serenityは、このサプライチェーンの中で最も上流かつ希少性の高い領域を捉えていました。
具体的な投資先を見ると、Serenityの調査対象は前述した6社と大きく重なっています。彼が最初に大きな注目を集めたリサーチでは、COHR、LITE、Eoptolink、中際旭創(Zhongji InnoLight:中国の光モジュールメーカー)を取り上げていました。また、ALABも代表的な保有銘柄の一つであり、2024年から2025年にかけて株価は数倍に上昇しています。MRVLについては長期的に有望視している一方、Broadcomとの競争によってASIC市場のシェアが圧迫される可能性があることも認めています。AAOIについては強気の姿勢を維持しており、市場の悲観的な見方は誤っていると考えています。その根拠は、AIインフラにおける構造的な需給ギャップです。高性能レーザーや光モジュールの生産能力には限界がある一方で、AMDや大手クラウド事業者による高速光インターコネクト需要は拡大し続けています。Serenityは、AAOIの年間売上高は2027年までに約5億6,000万ドル規模へ拡大し、一部の生産能力拡大サイクルは2028年まで続く可能性があると予測しています。LITEについても、2024年に約30億ドルだった時価総額が650億ドル超まで拡大した背景には、NVIDIA向けEMLレーザーの供給不足と光ネットワークアーキテクチャの変化があると分析しており、これも「ボトルネック理論」を裏付ける代表例と位置付けています。
Serenityは、CPO(Co-Packaged Optics)の技術ロードマップを巡る議論でも大きな影響力を発揮しました。2026年6月、調査会社SemiAnalysisが公表したレポートをきっかけに、CPO関連銘柄は大きく下落し、AAOI、LITE、COHR、MRVLなどは一時、一桁後半から二桁台の下落率を記録しました。これに対しSerenityは公開の場で反論し、SemiAnalysisは保守的なエンジニアリングモデルに依存し過ぎており、NVIDIAのハードウェア開発サイクル短縮能力を過小評価していると指摘しました。さらに、FoxconnがCPO関連製品の登録件数を増やしていることや、NVIDIAの光スイッチが予定より早く出荷を開始したことなど、サプライチェーンのデータを根拠として挙げ、CPOの本格普及は2026年後半に加速すると主張しました。Serenityは、一部調査機関による悲観的な見方よりも、業界各社が繰り返し示している量産スケジュールを重視すべきだと述べています。これらの見解が公表された後、関連セクターは反発しました。
Serenityの影響力は、すでに海外SNSから中国A株市場へも広がっています。公開情報によると、彼の発信をきっかけに中国A株では20%前後上昇した銘柄もあり、そのリサーチ手法は一部のクオンツファンドからも注目されています。市場が彼の見解に賛同するかどうかにかかわらず、Serenityは今回の光モジュール相場において無視できない「変数」となっています。「ボトルネック理論」によって光モジュールを脇役から主役へ押し上げるとともに、AIコンピューティング競争の本質は、物理的な制約を一つひとつ突破していくことにあると、多くの投資家へ示しました。
注目すべき今後のトレンド
光モジュール業界では現在、上記各社の競争環境を左右する複数の構造的な変化が進んでいます。
第一に、製品の世代交代が加速しています。 800Gが出荷のピークを迎える前に、すでに1.6T光モジュールの量産立ち上げが進んでいます。これは製品ライフサイクルの短縮を意味し、高付加価値製品による売上・利益への貢献がこれまで以上に早まっています。上流の光チップやDSPメーカーにとっては、数量と価格の双方が成長する局面であり、一方で光モジュールメーカーには、継続的な研究開発投資と生産能力の拡大が求められています。
第二に、CPOはコンセプトから実用化の段階へ移行しています。 NVIDIAは2026年5月のGTC Taipeiで、CPOベースのSpectrum-X Ethernet Photonicsスイッチを初めて量産段階へ移行しました。CPOが従来のプラガブル光モジュールを完全に置き換えることはありません。少なくとも「スケールアウト」構成では、今後もトランシーバーが主流であり続ける見込みです。しかし、光通信における価値の分布は確実に変化しています。その価値は単体の光モジュールから、AIネットワーク全体へと広がりつつあります。
第三に、上流サプライチェーンが新たなボトルネックとなっています。 光チップの供給確保が、光モジュールメーカーの競争力を直接左右するようになっています。EMLレーザー、DSP、リン化インジウム(InP)基板などの分野では、いずれも程度の差こそあれ供給不足が続いています。NVIDIAによるLumentumとCoherentへの相次ぐ出資、Marvellの生産能力拡大、AAOIによるリン化インジウムレーザー生産能力を350%増強する計画──これらはすべて同じ考え方に基づいています。
次の競争を制するのは、上流サプライチェーンを確保した企業です。
光モジュールは、かつて通信ネットワークの中でもほとんど注目されない存在でした。しかしAI時代に入り、「コンピューティングという高速道路」で建設が進む「料金所」のような重要な存在へと変わりました。この変化は急速に進んでいます。そして、その進化はまだ始まったばかりです。
参考資料